「私たち再婚したんです。」と、言われて、事情がよくわからなくて、
「お二人とも再婚ですか?」などと間の抜けた質問をしてしまいました。
ご主人が進行性の病気で認知症と身体障害を合併、寝たきりのご主人を奥様が介護をされています。奥様の話は続きます。
40年連れ添ったあと、主人がこの病気になりました。
私はそれまで主人から「お母さん」と呼ばれていましたが、私のことがわからなくなりました。
嫁入りのときに持ってきた木彫りの小さなお雛様があるのです。私が生まれた時は終戦前で何もない時でしたが、親が探してくれたものです。そのお雛様を私が触っていると、
「これはお母さんのだから触らないでくれ」
と言うのです。靴も、タンスも「触らないでくれ」と言うんです。私がわからなくなった主人がかわいそうでかわいそうで。
それから、私は「お母さんは元気ですよ」と言って、私はもう一度主人と一緒になったのです。
そろそろ50年ですね。奥様はしみじみとご主人を見ながら話してくださいました。重症とわかって、ご自宅で最後まで過ごしたいと希望されて、退院してこられました。このご夫婦の間を妨げるものは何もありません。
もうすぐひな祭りです。玄関には木彫りのお雛様が飾ってありました。
木彫り雛 静かに時を見つめているようだ