「医療的ケアが必要な子どもの地域生活を支援する!」
シンポジウムの趣旨
地域には、経管栄養、気管切開、人工呼吸器などの医療的なケアが必要な子どもたちがいる。先天性心疾患を抱えていたり、けいれんを頻発する、さらに悪性疾患を抱えるなど生活面で医療的な配慮が欠かせない子どもたちがいる。このような子どもが地域で生活する際には、さまざまな支援が必要であるが、保育や託児など子育て支援のためにあるはずの社会資源はほとんど使えない、また就学にあたってもさまざまな苦労がある。親がほっとひと息つきたいときや、きょうだいの運動会に両親そろって出たい、などのときに預かってもらえるレスパイトケア施設も身近にほとんどないのが現状である。
病院に入院することはできても、病院は治療の場であり、育ちに対する配慮は充分であるとは言えない。医療と福祉の狭間で、地域で
暮らす子どもと親に支援策はなかなか届かないのである。また、親は、自分がいなくなったらどうなるのか、という親なき後の不安も感じている。
医療的ケアや配慮が必要な子どものいる家庭はさまざまである。がんばれというのは簡単であるが、本人も本人なりにがんばっているし、親はすでにがんばっている。がんばれない事情がある親もいる。とすれば、残された手は、周りの大人たちがどう関わり、どうつないでいくかということに尽きるだろう。
今回、医療的ケアや配慮が必要な子どもの地域生活の支援にそれぞれの立場で取り組む人たちから学び、医療を越えて多職種がチームで関わる地域ケアについて考えてみたい。
「育てにくさ」「生活しにくさ」を何とかしたい
そんな想いに寄り添う看護訪問看護ステーションほのか
管理者 梶原厚子さん松山市にある訪問看護ステーションほのかは、看護師19名(常勤14名)、PT、OTも有する大規模な事業所である。
開所して今年で10年目を迎えるが、医療依存度が高いまたは生活面で常に医療的配慮が必要な子ども達の訪問看護では全国有数の実績をもつ訪問看護ステーションである。小児領域の利用者は74名で全体の利用者の60%にあたる(2009年8月実績)。所長の梶原厚子さんは、「その子をどうするか」という視点で支援をしている。利用者には、心疾患や心臓以外の内臓疾患の子ども、難治性てんかんをもつも多い。経管栄養、在宅酸素、気管切開、人工呼吸器、中心静脈栄養などさまざまな医療的ケアも必要である。
このような子ども達にはさまざまな「生きにくさ」や「育てにくさ」がある。ただ医療を与えるだけではよくならない。そのため、ほのかでは、通院や、就学に伴う支援、高校卒業後に通うところへの支援など、利用者が希望すればこれらのお金にならない支援にも関わっている。梶原さんは「通院介助は滅多にないチャンス。ここを支えると信頼を得られるし、主治医とも連携がとれる。お金払ってでも受けるべきだ」という。また、「留守番看護」という、看護師が滞在するレスパイトケアも行う。これは医療保険に請求するのであるが、実費により延長も可能である。この留守番看護を利用することで、母親は人を信頼して、安心して子どもを託すことができ、その子どもも、人を信頼して心身を預けられるようになる。
子どもの地域生活支援のポイントとしては、子どもは自分で家族や環境を選ぶことはできないので、家族の自立と幸せを支援すること、どこに入院しても必ず家族の待つ地域へ帰ってくるので、地域は無条件で受け入れること、子どもは誕生してから継続した支援を受けることで育っていくので、不安を感じたそのときから支援すること、「いのち」の時間が限られている子どもの支援には、笑顔になれる支援をすることなどをあげている。民間の事業所として地域連携をしていく立場として、梶原さんは、相手を非難しないことを強調する。医療的なケアや配慮が必要な子どもは、さまざまな場面で排除されがちである。しかし、そこで、こじあける、ケンカする、ではなく、気持ちよく受け入れてもらえるように動いていくという。
こうして地域で信頼を得てきたほのかは、今では新生児集中治療室のある病院から、退院前に相談を受けるようになっている。また、2009年6月からは、「ほのかのおひさま」という児童デイサービスをはじめ、障がいをもつ子どもが安心して過ごせる場もはじめている。「体の弱い子は、小さいときに心を鍛えておかないといけない」という言葉には、多くの子どもと家族を支援してきた梶原さんの気持ちが表れている。
「電話一本で人が集まる支援チーム」づくり
社会福祉法人高水福祉会北信圏域障害者総合相談支援センター所長 福岡寿さん
福岡寿さんは、相談支援専門員として「一晩でいいから熟睡したい」という吸引の必要な障がい児の母親の相談を受けたことがある。
当時、サービスの開拓や調整のほとんどは、母親が苦労しながら行っていたのだった。しかし、自分は医療関係者ではないし、泊り込んで預かることもできないと考えた福岡さんは、関係機関によるチームアプローチを試みた。
母親に承諾を得た上で、電話一本で人を集めていった。
そして、特別支援学校を会場に、カンファレンスを開いた。このエリアで、使える短期入所は・・・「ないですね」。あ、ないんですね、みんな聞きましたね、ということで、このエリアに使える短期入所がないということが共有できる。では、どこを使うのか、ということを考えていく。
このチームアプローチの考え方を、福岡さんはこう例える。朝の忙しいときに、車が一台エンストをしていた。どうするか。きっとほとんどの人は、通り過ぎる。そのとき、その車を見て見ぬふりをして通り過ぎようとするのである。福岡さんが車を止めるとする。しかし、福岡さん一人では車を押せないし、腰には持病もあるので無理できない。そこで、その場に立って、他の車を止める。どうやって止めるか、その車を運転する人と目が合うと、その車も止まる。あなたも見たわね、である。
そうやって、知らないふりができなくする。
福岡さんのやりかたは、自分が動くのではなく、誰かにやらせるというものである。みんなに電話一本で集ってもらい、どのような協力体制で子どもを支えて行くのかを皆で考えていく。当然、既存の資源では対応できない状況がたくさん見えてくる。
そんなとき、仕方ないでは終わらせず、「あなたも見たわね」式に不足する資源やネットワークに気づいてもらい、どうするのか協議を重ねていく。すると、皆少しずつ譲歩したり、自分もここまでならできるという意見がでてくる。
その積み上げがサービスをつくっていくことになるのである。
指定発言
聖路加国際病院 細谷亮太さん
梶原さんのやり方は、やれることはとにかく何とかしよう、自分達がやらなきゃならないという考えでやること。福岡さんのやり方は、誰かにやらせるということ。どちらも、やり方は違うが、目的は同じであり、両方のやり方があっていいと思う。
(文責 高橋昭彦)
【全国の集いin群馬 レポート:小児のセッションのまとめ(その1)】