
今年もよろしくお願いいたします。
最近、末期がんの方の在宅医療の相談が増えてきています。在宅緩和ケアに入るまでにさまざまな準備が必要なのですが、そのことは案外知られていません。中には在宅医だけ決めれば大丈夫なんて思っておられる方もあるかもしれませんが、本当はさまざまな準備の1つが在宅医療であるにすぎないのです。
今回、年末年始に経験した在宅緩和ケアは、まさに調整が何もなされていない方からのSOSでした。今回、専門職がどのようにつながればいいのか、患者・家族はどのように考えればいいのか、制度はどうなっているのか、などいろいろと考えることがありました。長いので、3,4回に分けてお伝えいたします。
なお、公開についてはご家族に了解を得てあります。
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年明けにミチオさん(仮名・72歳男性・家族に公開は了承を得ている)がなくなった。末期がんだった。ミチオさんは奥さんと2人暮らし。ミチオさん宅への初めての往診は、12月29日のことだった。
「家族からのSOS」
家族から電話が入ったのは、12月27日の午前中だった。年末で外来は混みあっていた。ミチオさんの娘さんの話を在宅担当事務が聴いた。
ミチオさんは病院が嫌いで、10月末に検査入院しときは、すでに胃がんが進行し食べ物の通りも難しい状態だった。肝臓に多発性の転移もあり、あと3か月という診断を受けた。家族の希望で本人には告知はしなかった。ミチオさんは検査をした後、すぐに家に帰ってきた。以来、ミチオさんと家族は一度も病院を受診していない。やがて食べ物が入らなくなり、娘さんは年末年始の間もたないのではないかと心配になり、相談があったのである。
「面談」
当院は在宅医療の利用者数の上限を定めていたが、年末にかけてすでに上限を超える状態だった。どうしたものかと考えた。しかし他に手段がないことから在宅医療を受ける覚悟で面談を行うことにした。
12月29日の午後、奥さんと2人の娘さんが来院した。当院が在宅医療を行うと言うことは、家族ぐるみで当院に受診するミチオさんの親戚から聞いていたそうだ。
改めて病状の経過をうかがう。確かに、今夜のうちに一度診察をしておかねばならない病状だった。しかし、まず方針を明らかにする必要がある。在宅ケアで最も大切なことは、本人がどうしたいのかということである。そこで、「がんという単語は使わないようにしますが、最期はどこで暮らしたいか、と聞いてもいいですか」と家族に告げて了解を得た。

つづく