2008年11月18日

尿の管のはなし

 あるとき、尿が出なくなってしまったふらふら(尿閉という)人の家族から相談があった。もうすぐ退院するが、病院では尿の管をつけたまま退院させるというのである。しかし、家族はなんとかして管を抜きたいと考えていた。入院前には自分でポータブルトイレに座って用足しをしていたからである。
 退院後、在宅医療が始まった。最初に自宅へ関係スタッフが集まって話し合いを開いた。管を抜くかどうかが話題となった。尿の管は、正しくは「尿道留置カテーテル」というが、膀胱に入った部分が簡単に抜けないように、先のほうに風船を膨らます部分があるため、通称「バルンカテーテル」という。
 尿閉の原因は明らかではなかった。そのため、バルンカテーテルを管を抜いても、尿が出るかどうかはやってみないとわからない。本来、このような管を抜くという試みは、病院に入院中にやっておいたほうがいい。在宅では常に医師や看護師がいるわけではないからである。抜いたあと、尿が出ない状態が続くことになると、膀胱や腎臓に負担がかかるため、適切な間隔で尿を出さねばならない。
 では、自分で尿が出せない人はどうするかというと、一日に数回自己導尿というやり方で用を足している人がいる。脊髄損傷や神経因性膀胱という状態の人である。導尿とは、尿道孔に、その都度、清潔なカテーテルを入れて、尿の道をつくり、お腹を押したりしながら尿を出すことをいう。しかし、今回のご本人は、自分で導尿ができる人ではないので、尿がでない場合には、誰かが導尿をしなければならない。といって、一日に何度も訪問看護や往診することは現実的ではない。
 話し合いではここが問題となったたらーっ(汗)。バルンカテーテルを抜いても尿がでないときは、誰が尿を出すのかということである。導尿は医療的ケアにあたるから、医師や看護師はできてもホームヘルパーはできない行為である。本人や家族が行うことについては自己導尿という言葉があるくらいであるから認められている(と考えてよい)。家族は抜きたいという思いはある。が、入院前の生活では、日中はなるべく通所(デイサービス)に通ってもらい、夜は自分が看るという生活をしてきたそうだ。ケアマネジャーからは、これまで通っていた通所介護事業所では、自分で尿ができる人と、バルンカテーテルが入っている人は受けるが、導尿はできないという話があった。でも、家族は一度抜いてみたいという希望があり、訪問看護に家族の指導をしてもらい、ある日の夕方、その試みは決行された。
 バルンカテーテルを抜いて数日の間で、自分で尿がでたのは2度だけ。あとはずっと導尿が続いた。当初は期待もしていたが、徐々にその厳しさが明らかとなった。、導尿をするということは前をはだけるということである。細い管から少しずつしか尿は出ないので、時間もかかり体も冷える。感染の危険も高まる。家族も疲れてきた。
 ついに熱を出した。尿路感染による熱だったexclamation。やむを得ず、再度バルンカテーテルを入れて、抗生剤の点滴をして、尿路感染を治療することを最優先にした。すぐに熱はおさまり、尿も滞りなく出るようになった。にごっていた尿もきれいになった。
 家族と訪問看護と話し合い、やはり自宅で毎回導尿をすることは本人や家族に負担がかかることと、通所サービスが使えないため、長続きしないこと、食欲も落ち体力も低下しているので、ここは撤退してバルンカテーテルの留置を続けようということになった。
 
 落ちついてきた頃、訪問すると、ご本人は笑顔であった。食欲もあり、よく飲んで食べる。尿もきれいである。通所も使えるようになり家族にもゆとりができてきた。

 パンチバルンカテーテルを入れるということは、それだけで尿路感染の原因となるのも確かである。しかし、在宅でそれを抜いて自己導尿に変えることになると、自己導尿に対応してくれる通所サービスがみあたらない。短期入所(ショートステイ)もバルンカテーテルがついた状態はみるが、入れ替えや導尿はしないところがほとんどのようである。
 抜きたいけれど抜けなかったが、一度試みたことで、やるだけのことはやったという思いが家族には残った。

 宇都宮ではイチョウが色づいている。
 今後、訪問看護と連携しながら、尿路感染を起こさないようなケアを続けていこうと思う猫
 

posted by 管理人 at 00:51 | Comment(2) | TrackBack(0) | 在宅ケア
この記事へのコメント
私がH12年から訪問させていただいている、患者さんで、バルーンカテーテルを入れているかたがいます。昨年くらいから、尿がにごり臭いも随分出てくるようになり、時々詰まるようになって来ました。そのつど膀胱洗浄やカテーテルを交換して戴いていましたが、交換のサイクルが短くなってきたもので、私に相談されました。
家族は薬は多くしたくないと言われたので、クランベリージュースを飲んでいただくことになりました。当初は酸味は我慢して飲んでいましたが、長続きしなかったので、クランベリーゼリーを食べていただくようになり、現在も継続中。クランベリーを飲食して戴き1ヵ月後くらいから、にごりはなく、臭いもなくなり、カテーテル交換が以前見たく頻繁に交換しなくなりました(定期交換のみ)。ただ、尿の色が少々紫色になる。
ところで、膀胱洗浄は先生のところでは、行っているのでしょうか?
ある先生は膀胱洗浄はそんなにする必要ないといわれる先生もいて・・・
洗浄には生食ですか?
以前、生食では頻回に行う事になるので、少々サイクルが長く出来る、酸性水を使用したことがあります。ただし、酸性水を作ったら直ぐに使用することが難点でした。

生食を患者宅へ数十本以って行くのは辛い!!港町は坂道(車が通れない)が多くて・・・
Posted by 山口 秀樹 at 2008年11月18日 08:38
 山口さんこんばんは。いつも読んでいただきありがとうございます。
 さて、バルンカテーテルがつまりやすい方は時々おられます。水分を多めに取る、局所を清潔にする、など一般的な方法でもつまる方は、まずバルンの材質を変えます。ゴムやシリコンから、バイオキャスや銀をコーティングしたシルバーキャスに変えます。
 しかし、過去に、つまりにくいとされるシルバーキャスに変えて、水分もしっかり摂り、毎週1回交換していても途中でつまってしまった方がおられました。そこは訪問看護が24時間動いていないエリアでしたので、夜中の3時に泣く泣くバルンカテーテルの交換に往診したこともありました。
 私も当初は、膀胱洗浄をすることは尿路感染の機会を増やすだけであるという考えていました。しかし、なんとしてもつまってしまう場合には、物理的にカスをとる方法しかないという泌尿器科の意見をきき、現在は手を尽してもダメな方は膀胱洗浄をしています。ちなみに上記の方は週1回訪問看護により膀胱洗浄をしてからは閉塞で呼ばれることは皆無になりました。ちなみに洗浄液は生理食塩水です。
 クランベリーは効果はあると思いますが、自費ですのでなかなか続きません。尿が紫色になるのは、便秘などによってつくらてたインジカン尿が細菌によりインジゴブルーが分解生成されるためで、病的なものではないようです。
 坂道を重い荷物を背負っての訪問お疲れ様です。えいほっ えいほっと。
 外は冷え込んできました。宇都宮では昨朝は初氷でしたよ。お体くれぐれもご自愛ください。
Posted by 高橋昭彦 at 2008年11月20日 23:35
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/22999916
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック